大手銀行為替デリバティブで500億円損失処理を簡単に説明

大手銀行4行為替デリバティブで500億円損失処理の報道がありました。これをできるだけ簡単に説明しようと思います。為替デリバティブに限定して、できるだけ内容も削っています。その点を念頭に置いてください。
(追記)下記、関心のある方は、ご参照。


粉飾決算の簡単な仕組みや、パナソニックやシャープの動向について取り上げていきます。

メガバンクが中小企業向けの損失処理

2012.7.17 19:41
 大手銀行4行が、中小企業などに過去販売した為替デリバティブ(金融派生商品)に関連し、2012年3月期に合計で500億円規模の損失を処理していたことが17日、分かった。歴史的な円高でデリバティブの評価損を抱えた顧客と和解を進めているためだ。円高の収束は見通せず、今後も増加する可能性がある。
いきなり、こんな記事がでてきてもよく分からないですね。ポイントを列挙します。『中小企業など』については後述します。順番に見ていけばそれほど難しいものではありません。

キーワード

(1)為替デリバティブ(金融派生商品)

(2)歴史的な円高が要因

(3)円高が収束せず、今後も増加

為替デリバティブ(金融派生商品)

円安と円高で損得が決定

ポイントは、為替デリバティブとなっていることです。デリバティブにもいろいろ種類があるのですが、ひとまず為替関連ということを頭に入れて下さい。

通貨オプションとは何か

▲中小企業の破綻増加は必至!銀行がはめた為替デリバティブの罠
2010年11月30日

 通貨オプションとは、為替デリバティブ商品の一種で、あらかじめ決めた価格で外貨を売買する権利のことだ。これを売買することで為替の変動リスクを回避できる。契約時、銀行へ支払う手数料は大半の場合、無料だ。それどころか時には利益を得ることもできる。
本来の目的は上記の通りです。決められた価格で、外貨売買を行う権利のことで為替の変動リスクを回避するためのものです。

輸出企業と輸入企業の比較

正確に言えば、権利の売買なのですが割愛。上記は分かりやすいと思います。

輸出企業の場合


○輸出企業を想定すると、品物を売ってドルが入ってきます。

○為替が円高ドル安になると、手元のドルが目減りします。

○手元に1万ドルある場合。

1ドル100円→1ドル80円になると、1ドル100円×1万ドル→1ドル80円×1万ドル

20万円の損失になります。


輸入企業の場合

○輸入企業を想定すると、品物を買うためにドルが必要になります。


○為替が円安ドル高になると、より多くの円が必要になります。

○手元に100万円ある場合。

1ドル100円→1ドル120円になると、1ドル100円×1万ドル→1ドル120円×1万ドル

20万円の損失になります。


先物取引(為替予約)と異なる点

契約がオーダーメード

企業ごとに契約がオーダーメードで、個別の契約を見る必要がある点です。

凄く簡単に言えば、ある一定の為替水準になると、急に購入するドルの量が倍・3倍になり損失が激増することに繋がる点です。

銀行は契約時に利益を前倒しできる


▲中小企業の破綻増加は必至!銀行がはめた為替デリバティブの罠

さらに「ギャップ」「ノックアウト」などと呼ばれる銀行側に有利な契約を結ばされるケースも多く、企業が受け取る利益は限定され、損失は拡大する。契約期間は5~10年と長く、解約の際には、契約内容や為替レートにもよるが、おおむね数千万~数億円もの違約金が必要となる。これが手数料ゼロのカラクリなのである。

 一方、銀行は通貨オプション契約の反対売買を市場で行い、為替リスクを回避する。契約には取得コストにマージンを乗せた行使価格を設定することで、利益を先食いできる。
ダイヤモンドの記事で間違っている点があるので一点指摘します。

『契約期間は5~10年と長く』となっていますが、正確には間違いです。もっと短期のものもあります。

ポイントは、銀行が利益を前倒しできる点にあります。ダイヤモンドが上記で言っていることを言い換えれば、契約時に利益として計上できることです。

利益を先食いできるということは、契約期間がより長期のほうが契約時に入る利益が大きくなります。そこで、銀行や証券会社にとってより長期間の契約を行う誘引が生まれてくる事になります。

銀行別の損失 報道続き

銀行別の損失

 関係者によると、みずほ銀行は約300億円、三菱東京UFJ銀行は約100億円、りそな銀行は約65億円、三井住友銀行が数十億円の損失を計上。三井住友信託銀行や地方銀行の一部も損失処理した。

上記の損失金額まとめ

○みずほ銀行      約300億円

○三菱東京UFJ銀行 約100億円

○りそな銀行      約65億円

○三井住友銀行銀行 数十億円

○その他銀行

ADRによる和解手続

ADRと紛争申し立ての増加

 損失の内訳は、裁判外紛争解決手続き(ADR)の和解による負担金や、将来の和解に備えた引当金などだ。金融ADR制度は10年10月に発足。ADRの認知が高まり、全国銀行協会(全銀協)には12年3月期、為替デリバティブの紛争申し立てが前期比4・7倍の733件あった。

ADRとは何か

裁判外紛争解決手続Wiki
裁判外紛争解決手続(ADR)は、訴訟手続によらない紛争解決方法を広く指すもの。
これ何?となると思います。簡単に言えば。

裁判をすると、弁護士が相手を逆なでするような主張そしてこじれるし、裁判は時間がかかるので、当事者同士に第3者を加えて決めようという話です。

斡旋と仲裁で大きく異なるのですが、細かい点は上記参照。
第3者の提案に対して強制力があるか、ないかの違いですね。

和解手続の増加について

さて報道では、ADRを用いた和解手続の増加の理由について、認知が高まったとありますが、これは正確ではありません。冒頭のキーワードに再度注目して下さい。


(2)歴史的な円高が要因

(3)円高が収束せず、今後も増加


この報道では触れられていませんが、円高が収束していれば、損失は減少します。つまり、円高が長引いていることが、この契約を締結した中小企業の体力を奪っているということです。

ダイヤモンドの特集に詳しく書かれていますが、銀行が優越的な立場を利用して契約を締結しているケースが紹介されています。あの銀行がADRに応じるのも、その点に落ち度があるからです。

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